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だって退屈なんだもん

 「あー、もう退屈、退屈。」

 いつもの今泉家のリビングで当家の主婦がぼやく。

 「全く・・・。カレーが余るから片付けるの手伝って、っていうから来たのに、さっきから退屈、退屈って・・・。」

 あまり期待せずに、一応は抗議してみる。

 「だって・・・、退屈なんだもん。」

 心の中で、こっそりずっこける。

 「そんな文句言う暇があるなら、もっと手の込んだ料理を食べさせていただけると嬉しいのですがね。」

 「うう、谷さん、ひどい。今日はもーちゃんもいるはずだったから、あたし特製の野菜ごろごろカレーを作ったのに、急に出かけちゃうんだもん。しょうがないでしょ?」

 「カレーなら冷凍しとけば、また食べられるっつーの。」

 大学生になった息子をちゃん付けするセンスはさておき、主婦の知恵はどうした、主婦の知恵は。

 「そうだけど、そうだけど。・・・でも、ジャガイモは冷凍するとグジグジってヤ~な感じになるし。」

 「全く、さっきから退屈だって言うけど、こちとら、窓口で小理屈こねる客に付き合うこともなく、国や県からの提出目的も調査理由もわからん調べもんにわずらわせられることもない休日は、無為な時間こそが至福の一時なんだよ。そこんとこ理解して発言するように。」

 厳しく突っ込むと、カレーを黙々と口に運び始めた。ふむ、逃げたな。そう思いつつ、さっきから気になっていたカレンダーに目を向けた。予定がびっしりと書き込まれたカレンダー。あまり体調が思わしくない、ということで早期退職した旦那が再就職した先は地元の商店街の経理全般をお世話する会社。さして忙しくはない、と聞いていたのに、商店街関係のイベントや近所付き合いの諸々に駆り出されているらしく、空白の日が見当たらない。これじゃ退職前より忙しいんじゃなかろうか。

 「退屈・・・っていうより、さ。」

 声をかけると、ちょっとうるんだ目でこっちを見る。全く、世話の焼ける。

 「そんなに退屈なら、買い物にでも出かけようか?ほら、そろそろ夏物、そうだな、新しいサンダルを買わないと困るんだよね。食べたら、出かけようか?」

 「うん。あたしも、そろそろ夏物の下見とかしたかったの。紳士服も見ていい?」

 鷹揚にうなづく。見る見る明るくなる表情に、家族持ちの幸せがわかる。自分のためじゃなく、家族である大事な人たちのために、か。

 「あ、それと八月の最後の土日はあたしのために空けておいてね?」

 「はいぃ?」

 「約束したでしょ?また、付き合ってねって。」

 あ、目の前真っ暗になってきた。武道館再び、ですか・・・。全く。でも、まあ、こうしていられる間は、こうしていよう。時間は、人にとって有限。変わらないものなんてないんだから。

  ******

 久し振りに今泉母登場。具がごろごろしているカレーは「今日からマ王」のユーリ陛下のお母様であらせられるハマのジェニファー様の得意料理からいただきました。野菜はごろごろだけどお肉はこま切れとか使っているのでごろごろしてません。武道館ライブネタは、一度書いたのですが、あまりに自分に痛くて、しかも未熟だったので封印しております。今泉母は子ども時代にけっこう苦労しているのですが、今の姿からは想像できないもんで。

 ちなみに今泉君はデートとかではなく、先輩からバイトを押し付けられて急に出かけることになった模様です。お人よしなところは母より母の友人に似ているようです。 

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