プレゼント
星がよく見える。冬の空気が澄んでいるからだ。ちらっと空を見上げて思う。
昼間にあったサークルの打ち上げ兼忘年会を抜け出し、見慣れた通りを早足で歩く。腕に抱えた紙袋がかさこそと乾いた音をさせる。頭の中は何をどう話したものか、まとまらない台詞がぐるぐる巡っている。
「はあっ。」
吐いた息が白い。ようやくたどり着いたのに、そこで足が止まってしまった。危うくそのまま後戻りしそうになったところへ声をかけられた。
「今泉さん?」
「あ、やあ、こんばんは。」
「こんばんは。」
その後が続かない。
「えっと・・・、お店のお手伝い?」
「はい、今日、クリスマスでしょ?単身赴任のお客さんたちって、こういうイベントの日は一人の家に帰りたくないって、うちのようなお店に来られるみたいで大忙しなんです。」
「あれ、でも・・・。」
そういえば以前、葉子の兄から聞いたことがある。家が小料理屋なので、それなりに手伝いはさせられてはいるが、やはり酒が出る場には姉妹は手伝わせないようにしていると。
葉子がくすくすと笑っている。
「何?」
「あのね、今泉さんが考えていること、わかっちゃったから。なんだかおかしくて。」
「ええっと・・・。」
「お店の手伝いといってもお皿洗ったり、お掃除したりが主なの。実さんが言ったとおりお客さんのいるところにはいないんです。今は外の物置に用事があったから出てきたところなんです。」
「そんなにわかりやすいかな、僕。」
ふるふると首を振る。髪が頬にかかる。
「なんだか、とっても心配そうにしてるから、もしかしたら、そうかなって。あの、今泉さんはどうしてここへ?」
思わず抱えていた紙袋を握り締める。どうにも言いにくい。もっと何とかしたかったと後悔する。ここに来て、ここで出会って、逃げるわけにはいかない。
「これを渡したくて。その・・・、クリスマスだから。」
少し驚いた表情で見上げる彼女に、ようやく紙袋を渡した。
「ありがとうございます。」
受け取って微笑む。
「中味なんだけど・・・、今日、サークルで施設でクリスマス人形劇をやって、その時に子供たちに配ったカードと・・・。」
ここでため息。
「その、母が君にってマフラーを編んでて、それで渡すように言われて・・・。」
様にならない。全く・・・、自分で編んだって言ったほうがよっぽどましだと思う。だけど、そんなつまらない嘘をつくのも情けない。
「開けていい?」
「どうぞ。」
丁寧にテープを剥がし、そっとライムイエローのモヘアのマフラーを取り出す。
「きれいな色。それにとっても柔らかい。嬉しい。お母さんにありがとうって伝えてくださいね。」
困った。可愛すぎる。冷静を装って、かろうじてうなづいた。
「それじゃ、寒いからもう中へ入った方がいいよ。」
「あ、はい。本当にありがとうございました。」
「うん、じゃあ、また。」
「はい、おやすみなさい。」
軽く手を振って別れた。結局、言えなかったけど、気がついてくれるのは何時だろう。あの袋の中にあるネックレスの小さな包みに。
おまけ
どひゃあ~なラブラブネタです。クリスマスなので突発的に作成。おまけなのにおまけコントなし。
後、もう数時間でクリスマスも終わるのになぁ。ぎりぎりセーフでよかった、というべきか。それにしても・・・、あいかわらず進展のない今泉君なのでした。へたれなのは君か書いているあたしか・・・。あたしだな。
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